イマドキ!授業

木山 慶子先生にインタビューしました

イマドキ!授業

「体育科指導法」自分の経験からその先の指導へ

教育学部生必修の体育授業

教育学部生では2年生から本格的に、各専攻の専門科目に関する授業を受講します。その中には選択科目も多く存在しているため、専攻によって受講する授業が大きく異なっていきます。そのような中、来年度のカリキュラム改正後も引き続き「必修」である授業が、今回紹介する「体育科指導法」です。

この授業はオムニバス形式で数回ごとに先生が変わりますが、今回は、その授業を担当する先生方の一人、教育学部保健体育講座の木山慶子教授に話を伺いました。実際、教育学部教育専攻の筆者を含め、保健体育専攻以外の学生もこの授業を受講し、学校現場における小学校の「体育の授業」について考え、学びましたが、この授業に込められた思いとは何かを木山先生に語っていただきました。

群馬大学大学院 保健学研究科 生体情報検査科学 齋藤 貴之教授
教育学部 保健体育専攻
教授 木山 慶子 先生(博士(体育科学))Kiyama Keiko
プロフィール
筑波大学大学院人間総合科学研究科博士課程修了。
研究分野
健康・スポーツ科学、身体教育学
研究テーマ
舞踊教育、芸術舞踊、体育科教育
担当科目
体育科指導法 ダンス実習、保健体育科指導法など
「体育科指導法」の目的は何ですか。
小学校に限らず、中、高を含めすべての学校の授業というのは学習指導要領に基づいて実施されるものであるので、まずはその学習指導要領の中で体育の授業がどのような目標、方法、評価によって行われているのかを理解してもらうといった、基礎的な知識を得てもらうことが目的です。
さらに、どう子どもたちに指導して行くのかという指導方法に関する基礎的な技能を身につけてもらうことも目標としています。
木山
逆に質問ですが、どうですか?今までの授業を受けてみて。
島田
教師目線で体育を考えたことがなかったなと思います。
木山
そう!実際、教師目線で体育を考えたことがなかった学生さんの方が多いと思います。今までは授業を受ける側の立場でしか「体育」を捉えられなかったけれど、今度は教える側になって、どんな風に授業を作っていけばいいのか、教えていけばいいのかといった、授業の構造を学んでもらって、実際の学校現場でどのように教えたらいいのかを理解してもらう授業が、体育科指導法です。
学校現場における体育の授業の役割は何でしょうか。
学習指導要領において、平成29・30年改訂の新しい学習指導要領の中でもそうなのだけど、「体育」では子どもたちに身につけさせたい資質能力として、まず『知識及び技能』、『思考力・判断力・表現力』、そして、『学びに向かう力、人間性』という大きな三つをあげています。総論すると、最終的に「体育」の授業の役割って、生涯スポーツにつなげることなのです。
皆さんは人間にとってスポーツをやったりする身体運動が、すごく良いことだよっていうのは分かっていると思います。だけど、高校を卒業して、大学や社会に出た時に、運動する機会がもしかしたら無くなってしまうかもしれません。
だから将来、大人になって、お母さんお父さんになって、おじいちゃんおばあちゃんになってもずっとずっと生涯を通して、自発的にスポーツを続けてくれることが、究極のねらいなんです。小・中学校では、器械運動とか陸上とか水泳とかすべての領域(種類)の運動を、中学校2年生までに一通りやります。そして中学校3年生から高校生になると、それが選択制になっていき、自分が興味のある運動を選んでより深めていく流れが、さらに大学へと引き継がれていくようになっていますね。
学校現場で体育の授業を行うときに重要なことは何でしょうか。
木山
「体育」も学習だから、算数とか数学とかみたいにちゃんと系統的な学びになっているはずなんだけれど、それが先生たちに理解されていないから、いつも単発で終わってしまう。
島田
確かに、「楽しかった」で終わっていました。
木山
それだけで終わってしまうことは、すごく問題です。現場の先生たちは、実際「何を教えたらいいのか」、「何から教えたらいいのか」がわからない。一応、指導要領には書いてあるんだけど、すごく長い文章で難しく書いてあるから・・・。
例えば、リズムやイメージの世界に没入してなりきって踊る、ダンスなどの表現運動って何を教えるのかっていった時に、それを明確に先生たちが伝えることができないから、子どもたちも「何をやっているんだろうな」って、授業の意味をつかめないまま、音楽に合わせて新しく踊って楽しかったね、で終わっちゃう。
体育は「技能」を教える場だと思っています。もちろん、技能以外にもさっき話したような、思考・判断・表現であるとか、学びに向かう力・人間性っていうのを、能力は関連しているから、すべてしなさいよっていう指導要領になっているけど、体育の特性は技能向上にある。何かが新しくできるようになる、何かが上手になるっていうというのは、子どもたちのモチベーション形成にもなってきますよね。今日は跳び箱3段まで跳べるようになったから、明日は4段まで跳べるかもとか、もっと他にも難しい技ができるかも!みたいなことが、子どもたちの中では一番のモチベーションになるから、そこをうまく活用しながら、いかに技能向上させてあげるかが、教師の腕の見せ所です。
入口として「表現運動(ダンス)って楽しい!」ってところをわかってもらいつつ、小学校の段階は、いろいろな動きを経験します。まだこの段階では、創作ダンスでいうところの作品をつくるところまではいかないけど、小学校4年生までは、色んな題材でとにかく即興的に色んな動きを体験させて動きのレパートリーを増やしてもらう。そしたら、何かテーマを設定した時にも、「あっこんな動きやったよね」って、今までの経験から自然と体が動くようになるじゃないですか。
私自身、体育が苦手っていう意識があるのですが、体育の授業が苦手な学生は、将来学校の先生になったときどうすればいいですか?
それ難しいですよね。私は、そういう「体育が苦手な人」を一人でも無くしたい。多分そのためには、小学校低学年の時期がすごく大事で、小さい頃に、成功体験を積ませ、運動することってなんて楽しいの!とか、何かが新しくできるようになることって楽しいんだ!っていうところを理解できればいいですよね。
教育学部の学生で「体育が苦手」な学生は、将来先生になったとき体育が苦手な子たちの気持ちをわかってあげられるという点でメリットがあると思います。だから、今、私の授業の中で、「その苦手を克服させるためにどうしたらいいか」とか、さっき説明した「何か運動することの楽しみを見つける方法」を見つけるっていうことが、すごく大事かもしれないですね。運動とか体育の良いところを見つけて、将来、学校現場で子供たちにアピールしてほしいです。
小学校体育科指導法「ボール運動」の授業
木山先生が担当するダンス実習
木山先生は、ご専門が表現運動領域(特にダンス)ですが、ダンスに興味をもったきっかけを教えていただけますか。
木山
私はずっとダンスをやってきたので、「このダンスの魅力をどうにかして子どもたちに伝えたい」と思っていて、学校体育の中ではこういう領域を「表現運動」の領域というのだけど、そこならその思いが実現できるかもと思ったことがきっかけです。
実際、学校でダンスの授業をするときの留意点ってありますか?
木山
そうですね。島田さんは、例えば、体育館で「風になりなさい」と言われたら風になれますか。
島田
一生懸命やります。
木山
(笑いながら)偉いですね。島田さんは大学生だし、授業だからやらなきゃいけない、みたいなところがあると思います。
でもこれが、特に小学校5、6年生になると、自我みたいなものがどんどん目覚めてきて、人前で踊ったり、人前で身体表現をしたりすることが、すごい苦痛とか恥ずかしさがある人たちがいると思っています。
島田
小学生の時はそうでした。
木山
マグマになれとか、抽象的なものにテーマを決めてそういう風になれって言われたら、引きますよね。
だからその対策のために、小学校1年生のときから「系統的な学習」をしてほしいということです。
小学校1年生の子たちっていうのは、本当になんにでもなれる。あの年代の子たちって。「ゴリラやってみて」と言ってもたぶんゴリラになれるし「パンダどんなふうに動く?」と言ってもパンダになれる。だから、この時期から表現運動の楽しさを毎年毎年系統的にやっていけば、まずは苦痛でない。表現運動の基礎基本というのは、即興的に色々なものになれたり、色んな動きになれたりする経験をいくつしたかによるのだと思います。
例えば1年生の時に10とか20とか30とか、そのくらい動きを経験すれば、2年生でも30やれば60個の動きができるということになりますよね。それが毎年積み重なっていけば、おそらく100くらいの自分の中での動きのストックができる。表現運動は、学習の積み重ねだから。
基礎基本の積み重ねが無いっていうことが、恥ずかしさの原因だと思います。小学校3年生くらいまで系統的な学習がなくて、いきなり小学校5、6年生とか中学校で「はい、ゴリラになってください」というのは無理な話。
ダンスの授業は雰囲気が大事とのことですが。
体育の授業って、どういうイメージをもっているかわからないけど、怖い先生がピシッと列になっていて、おしゃべりもできない、しゃべっちゃダメみたいな雰囲気があるけど、表現運動に関しては、シビアな部分は取り除いて、明るい雰囲気をつくるとか、「肯定的な雰囲気」っていうんですけど、ちょっと変な動きしてもいいし、友達と笑い合ったり、おしゃべりしたり話したりしながらできる雰囲気づくりが大事かなとも思います。だから私は、音楽をよく使います。シーンとした中では動けないですよね。
それから、一人で動くということをできるだけ避けます。グループで動く、何人かで友達と一緒に動く、そういうことを手立てとしてやったほうがいいかもしれないですね。広がってから、「はい、じゃあ近くの人と二人組でやってごらん」って。もしそれを変えたければ「じゃあ今度違う人と二人組でやってごらん」というようにしてグループのメンバーは必ず変える。でないと動きの幅が広がらない。同じ人とずっと動いていると、同じ動きしか出ないので、違う人と一緒にグループになりながら、わいわいやると色々な動きができるようになります。
このコーナーの取材を
担当した学生広報大使
教育学部教育専攻2年 島田 咲羽
教育学部教育専攻 2年
島田 咲羽
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