イマドキ!授業

齋藤 貴之先生にインタビューしました

イマドキ!授業

日本の医療を支える臨床検査技師に寄り添う授業

コロナウイルス感染症の拡大などもあり、PCR法などがよく話題に上がります。PCR法などの検査を行っているのは、臨床検査技師と呼ばれる人々です。群馬大学検査技術科学専攻では国際的な活躍ができる臨床検査技師の育成を目指しています。
今回特集するのは、臨床検査技師専攻の履修科目の一つである「血液検査学実習」です。
お話は「血液検査学実習」を担当する齋藤 貴之先生に伺いました。

群馬大学大学院 保健学研究科 生体情報検査科学 齋藤 貴之教授
群馬大学大学院 保健学研究科 生体情報検査科学
教授 齋藤 貴之Takayuki Saitou
プロフィール
群馬大学医学部卒業。内科研修後、国立がんセンター研究所生物学部で研究し、DNA修復研究で医学博士取得。UCLA School of Medicine, CSMCでポスドク。群馬大学医学部附属病院 血液内科助手、腫瘍センター副センター長、群馬大学大学院保健学研究科 生体情報検査科学講座 准教授を経て、2016年より現職。
研究分野
血液検査学、生体防御学、DNA修復、白血病や多発性骨髄腫の研究、医学部EnglishCafeやGFLなど国際交流の責任者
ホームページ
「血液検査学実習」とは、どのような授業ですか?
血液検査学実習は名前のとおり、血液の検査のために行う学問です。感染症がひどくなったり出血傾向があったりして、ようやく病院に来る患者さんが多かった昔と比べると、現在は医療へのアクセスが容易になったため、健康診断や人間ドック、かかりつけ医にかかることによって、検査によって病気の初期に異常を見つけることができるようになりました。血液検査学は診断の治療と密接に結びついた、重要なものであるといえます。
筒井
ありがとうございます。では、質問にいきたいと思います。
先生の考えるこの授業の必要性とは、どんなところですか?
血液内科医なので、白血病、骨髄腫などの血液の病気を抱えている患者さんの治療にあたるのですが、治療にあたり、診断が非常に大切になってくるわけです。現在の医療体制では臨床検査技師が実施した検査に基づき、医師が診断を行っています。医師の診断を支えているのは臨床検査技師が行っている検査です。臨床検査技師は検査を行うだけでなく、病気のことを深く理解することによって直接診断に関わる存在だと考えています。臨床検査技師は検査が特に重要視される血液系の疾患の治療において、大きな役割を果たすことになります。これから臨床検査技師の活動領域が広がっていくと、より早く病気の診断ができるようになるほか、患者さんにより的確な治療を提供することができるようになると思います。学生のみなさんには、学生のときから検査だけでなくどうやって診断をするのか、どういう治療を行うのかを含めて、トータルで血液検査学を見直してもらいたいと思っています。検査技師も検査だけを知るのではなく、検査のむこうにいる患者さんの状態を知ってもらいたい。そういった思いで授業を行っています。
筒井
検査の方法だけでなく、その患者さんの治療なども含めて知ってほしいということですね?
齋藤
そうです。そのためには、病気の向こう側の患者さんのことを想像してあたれる医療従事者になってほしいと思っています。
筒井
なるほど。ではそこで、
そもそも齋藤先生が血液内科にすすんだ理由は?
外科はつらそうだから、患者さん全体を診るような内科医になろうと。診断から治療まで全部みることができるうえに専門性があるため血液内科を選びました。白血病や小児の病気など、比較的長い期間にわたる血液の病気の治療では、患者さんと長い期間関わることになります。血液内科になってからは、患者さんとの関わりが多く、長い期間にわたる関係をつくることができることが良い点だと思っています。
筒井
内科医というと患者さんと話すことが多いイメージですが、もとから人と話すことが好きだったのですか?
齋藤
そんなことありません(笑)。この間、20年ぶりに同窓会に行ったら「そんなやつじゃなかった。」って言われましたから(笑)。自分がどうして医療従事者になろうと思ったかというと、少しでも人の近くにいることが役目だと思ったからで。教員になってからも、患者さんの気持ちに寄り添い、学生の近くにいることが自分にとってのプライオリティが高いことで、自分の役目だと思っています。その人の気持ちになったり、その人のことを考えたりすることが自分の人生にとって大切なことなのだという気持ちが強くなりました。
筒井
先生は今外来での診察も行っているのですよね。学生指導との両立は大変ではないですか?
齋藤
時間的には大変ですが、私にとってはどちらもかけがえのないものです。臨床で患者さんに接していることがそのまま学生への指導に活かせるのですね。例えば、患者さんの病気の話を学生に話し、病気の患者さんのことを伝えることができます。そういった意味では教育と臨床は自分のなかでリンクして一致しているのです。
筒井
ありがとうございます。では次の質問です。
「血液検査学実習」の授業をしていて、楽しいときはありますか?
実習で学生がなにかを発見する、気づきがあったときです。
例えば顕微鏡で自分から何かを見つけた時だとか。あと、レポートを読むことが好きです。学生が1つのことに関していろんなことを調べて考えてくれているのが伝わってくるので、学生の努力の結晶をみているようで楽しいのです。学生が気付いてくれるのも楽しいし、それをまとめて自分の頭で考えている姿を想像することも楽しいですね。学生の成長する姿を見ることが好きです。入学当初と比較すると、学生は多くのことを考え、行うことができるようになります。学生の成長の姿を近くでみることができるところが教員のよいところかな。
実習の様子
筒井
成長をみられるのは先生の特権ですね。
齋藤
社会人になれば先輩後輩の立場から人の成長をみられると思うのですけど、教員はもっと若いときに接し、成長の姿を見ることができます。若いときは可能性があるじゃないですか。学生を見ていると、これからどういう風になるか分からないけど、きっと輝いていくのだろうなと思います。それに、のびますしね。頑張っているところを見ることができます。
授業で教えるときに、気をつけていることはありますか?
毎年ある程度同じことをしているのですが、新しいものを付け加えたいという気持ちがあります。学生から質問やコメントがあると、自分の成長や気づきにもつながるので、やはり学生の意見や質問をできるだけフィードバックした授業を行いたいと思っています。
  • 実習の様子
  • 実習の様子
筒井
先生はいつも感想用紙などを用意してくださっていますよね。
齋藤
そう。それも自分のためでもあります。講義は役に立っておもしろいほうがよいという気持ちがあるのですが、やはり自分だけで考えていると思いつかない点があります。そこでみんなの意見を取り入れて、どこがよかったかな、どこを改善しようかな、と考えています。
授業を通して学生に身につけてほしいことや、それを実際に病院に就職したときに活かしてほしいことはありますか?
「血液検査学実習」は、血液疾患を診断するための検査技術について取り扱う講義なので、血液の知識や技術を身に着けてほしいことが前提としてあります。しかし、学生に本当に身につけてほしいのは「自分で考える力」です。目の前に分からないことがあったとしても、いろんな調べ物をしたり周りの人に尋ねたりすることによって、自分で考える力を身につけてほしいと思っています。自分で考える力を身につけてもらえれば、将来臨床検査技師として働いて何か問題があったとしてもいろんなものを使って自分で調べたり、他の人に尋ねたりして、問題解決が出来ます。「血液検査学実習」では問題解決能力を身につけてほしいです。
筒井
齋藤先生は実際の検査部にも行かれるのですか?
齋藤
検査部に行きますよ。大学で教えている検査のやりかたとは違うところもありますからね。実際の検査は機械で自動化されていますし。それに、やはり働いている人がどのような気持ちで働いているのかについては理解していなければなりません。病院のなかでこんなに臨床検査技師は活躍できるのだ、ということを学生に伝えたいと思っています。
病院での臨床検査技師のこれからの活躍として先生はなにか考えていらっしゃいますか?
2つあります。
1つは研究領域の拡大です。検査の基礎的なものを支えることができるのは臨床検査技師だけだと思っています。基礎研究の道に進む研究医が減少している現状では、基礎研究を支えることができるのは医師以外の職種になると思います。理論と実際の病気の両方を理解している数少ない職種が臨床検査技師なのです。臨床検査技師は英語でMedical Laboratory Scientist(MLS)と言います。つまり、臨床検査技師も科学者なのです。ですから臨床検査技師も科学者の立場から、もっと研究領域に携わることができると思います。
あとは、臨床検査技師の活動領域の拡大です。臨床検査技師は病院のなかで、もっと役割がもてるはずです。現在ほとんどの臨床検査技師が検査部のなかで働いています。感染制御部などで働く臨床検査技師もいますが、それほど多くはありません。しかし最近では、検査を説明する病棟検査技師が増えてきています。
医師や、場合によっては看護師が患者さんに検査結果を伝えているのが現状ですが、検査のプロフェッショナルである臨床検査技師が他職種と連携して検査の説明をすることは必要なことだと思っています。
薬剤部にはドラッグインフォメーションという薬剤の問い合せを受けつけるセクションがあります。検査にも問い合わせをするところはあるのですが、小さいのですよ。本格的なところはなくて。検査部にも検査の問い合わせを受け付けるセクションを作ってみてはどうかと思います。そうすることで、検査部のなかで独自に検査技術の研究も進めることが出来るのではないかと思っています。実際にこのような取り組みを行い始めているところもあるようです。
さらに、在宅医療の現場にも臨床検査技師の役割を拡大できると思います。臨床検査技師が一人で患者さんの自宅へ行き、患者さんの自宅でエコー(超音波)をとって、オンライン上で病院にいる医師に結果を送り、遠隔で診断のフィードバックを受ける、新しい臨床検査技師の勤務形態をとる臨床検査技師も最近では出始めているみたいですよ。
筒井
臨床検査技師の在宅勤務は新しいですね。
齋藤
これからの臨床検査技師の働き方はだいぶ変わると思うのですよ。法改正がおこるという話もあるし。あとは、AIです。人工知能を扱える臨床検査技師にならないと。家電などにAIが搭載されるようになってきていることもあり、AIは身近なものとなりつつあります。AIによって臨床検査技師の職が少なくなるという話があると思うのですが、これからの臨床検査技師は、AIを利用した検査を実施するデータサイエンティストとしての役割を果たすことが出来ると思います。実際、京都大学などでも少しずつAIを利用した検査を行っていたりするようです。臨床検査技師の検査にAIが導入されることで、さらに臨床検査技師の領域が広がっていくのではないかと思っています。私も少し勉強しているのですよ。
筒井
AIが出てきたら臨床検査技師がいらなくなると思っていたのですが、逆に仕事が増えるのですね。
齋藤
そうですね。私はワシントン大学に毎年行っているのですが、ワシントン大学附属病院の検査部では多くの検査技師が業務に携わっています。ルーチン化している検査はほぼ自動化されているのですが、新しい検査にはやはり多くの人が必要なのです。検査って新しいテクノロジーですし、検査がないと医療がたちゆかなくなることがあります。
最近はコロナウイルス感染の拡大により「臨床検査技師が足りない。」「PCRを出来る人を増やさなければいけないけれど、そのための教育が不足している。」などと報道されていましたが、まさしくその通りだと思います。臨床検査技師がすべての領域で同じように働くというのはなくなると思います。ですが、新しい技術が必要な分野などに関しては、人が必要です。そして、そのような新しい知識や技術を扱う人がこれからの臨床検査技師だと思っています。
筒井
なるほど。臨床検査技師は働き方に関しても社会とのかかわり方に関しても、これから大きく変わっていきそうですね。
齋藤
血液検査を教えるだけではなく、学生に夢をもってもらうことも教員としての役目だと思っています。学生に「私は将来こういうことが出来るのだ、もっと頑張りたい。」と思えるような夢をもってもらいたいです。
筒井
齋藤先生、本日はありがとうございました。
このコーナーの取材を
担当した学生広報大使
医学部保健学科3年 筒井美帆さんの写真
医学部保健学科 3年
筒井 美帆
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