※記事の内容は取材当時のものです。
西村 淑子先生にインタビューしました
ハンセン病について学び考える新授業
社会情報学部では、2016年度にカリキュラムの再編が行われ、「ディレクション制」を導入しました。ディレクションごとに開講されている「プロジェクト科目」のうち、今回特集するのは、『公務と法律』を受講する学生向けの授業「プロジェクト科目A-Ⅱ」です。私たちはこの授業を担当する西村淑子教授にお話を伺いました。
群馬大学社会情報学部
教授 西村 淑子 先生(法学博士)Nishimura Yoshiko
プロフィール
成城大学大学院法学研究科博士課程修了
研究分野
行政法、 環境法
研究テーマ
アメリカの環境訴訟、行政訴訟の原告適格、福島原発事故による被害者の救済
担当科目
行政法Ⅰ・Ⅱ、環境法Ⅰ・Ⅱ、社会情報学プロジェクトA-Ⅱ
授業のきっかけは自身の体験から
そもそもこの授業は熊本の水俣の人々との出会いが始まりだそうです。
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西村
- 熊本は水俣病が発生した地域で私も熊本に何度も行って、勉強していました。その時に、「群馬にはハンセン病問題があるよね、群馬にいるなら群馬大学がやらなきゃダメじゃない!」と言われて始めたんです。地元に根を張った教育や研究がすごく大事なのだと水俣の人たちに教えてもらいました。広く勉強する必要もあるけれど、実際に何かを解決するためには自分たちの身近な問題を発見して直接向き合うことが大事だと教えてもらいました。
授業の内容について
先生の担当するこの「プロジェクト科目A-Ⅱ」は、学生たちが草津へとフィールドワークに行き、栗くりうらくせんえん生楽泉園などを回り、ハンセン病について学び考えるというものです。 先生によると、先生はこの授業より以前にゼミの学生と栗生楽泉園へ何度も向い、活動をしていたそうです。
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西村
- 私の専門は行政法についてですが、行政法のテーマの一環として、ハンセン病の問題を取り上げてきました。群馬には草津に国立のハンセン病療養所があるということで、学生と地域の人がお互いに交流して学ぶことがとても大事だと思い、ゼミ生と一緒にハンセン病についての学会へお手伝いに行ったり、地域貢献事業の一環として、一般の方へ向けてスタディツアーなどを行ったりしました。
その後、社会情報学部で「体験型の授業を必修にする」ということが決まり、「プロジェクト科目A-Ⅱ」が始まったそうです。この授業は夏休み中に行われ、草津に一泊して栗生楽泉園の入所者さんにインタビューなどを行い、関連する様々な場所を訪れた後、個人やグループ単位で学んだことを元にレポート作成や発表を行うというものです。希望者が多いため、受講できる人数を制限しており、今年度の予定人数は34人だそうです。
プロジェクト科目になってから変わったこと
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西村
- 2年生はすごくまじめに授業を受けてくれます。3年のゼミ生から「2年生も一生懸命やってくれましたよ」と報告があります。さらにこの学びを深めたいという学生がゼミに入り、このフィールドワークのサポート側として活躍してもらっています。
学生自身に主体的に考えてもらう
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西村
- インタビューで事実を本人から聞くということも大事ですが、それは本当に一部にしか過ぎず、その話がすべてではないです。過去はどうなのか、語られていないことはどうなのか、そういった部分を学生自身に考えさせることもこの授業の目的のひとつとしています。
グループワークで得られたことを元に、プレゼンをして共有もしています。中でも最も大事なテーマは“ハンセン病の歴史をどう継承していくか”ということ。10年後、20年後には療養所の入所者さんはいなくなり、療養所は閉鎖されるかもしれない。そこで統廃合しようという動きも出ています。
そうなったときにハンセン病の問題を知らない人にどのように理解してもらい、歴史を継承していくべきなのか、を考えてもらうことを一番のテーマとしてかかげています。全体報告会という形でプレゼンし、のちに学生個人にレポートとして書いてもらっています。
実践から学ぶことの重要性
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西村
- 入所者さんとのやり取りには“一期一会”という言葉があるようにこれは最初で最後かもしれない。聞かせてくださった方に「ちゃんと受けとめましたよ」ということが伝わるようにお礼状を書くことを毎年必ずやっているのです。
人と人との直接的なコミュニケーションもデジタル化が進んでいる現代だからこそ、手紙というアナログの形で感謝の気持ちを残すことが重要なのだとお話を伺って感じました。 その点から、この授業は『公務と法律』の授業ではありますが、コミュニケーションという分野では多方面につながりがみられます。
行政の目線だけでなく、さまざまな目線から
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西村
- 『公務と法律』のディレクションを選択している人はやはり将来の進路が公務員の人が多いですね。
この授業はそれらの学生に向けて、かつてあったハンセン病の差別問題、また、それに関する法律を行政法のテーマとして扱い、学びを深めるのが目的です。
実際、将来公務員になって福祉の現場で働く人もいます。ビジネスやお金で解決できない問題がある、それを解決するには身をもって体験することが大切です。
でも目的は一つではなくて、他にもその地域の人たちがどういう風に療養所の患者さんと接していたのか、地域社会の中にもいろいろな歴史があるということを知ってほしいと思っています。今、療養所に入所している方々も高齢化が進んできています。入所者の方々がどういう気持ちで、どんなふうに療養所の中で暮らしてきたかということは、入所者さんたちが文章にしたり、証言したり、その映像が残っているので、様々な形で見聞きすることはできます。
でも、直接行ってお話を聞ける貴重な機会を得られるのはあと5年くらいなのかな、と。
昨年フィールドワークに参加した学生が撮影した写真
温泉街の中心に位置する湯畑。
七本の樋のうち、一番手前を流れる湯が栗生楽泉園まで引かれている。
所内児童の教育が行われた旧草津小・中学校分校の講堂。
現在は物置になっている。
「重監房」の跡地。
建物の基礎のみが残り、部屋の狭さを窺わせる。
栗生楽泉園内の入所者納骨堂。
手前には、強制的に流産させられた胎児の供養碑がある。
かつてハンセン病の治療薬とされた、
ダイフウシの種子から作られた油。
「重監房資料館」で展示されている「特別病室」の再現模型。
戦後解体されるまで、劣悪な環境下で多数の死者を出した。
現在ハンセン病の一般的な治療法である
多剤併用療法で用いられる特効薬。
重監房の跡地からは、
被収容者を閉じ込めるための南京錠が出土した。
入居者の方を訪れた際、一緒に作った天ぷら。
お菓子や飲み物をふるまっていただき、
日々の暮らしの事を語ってくださった。
このコーナーの取材を
担当した学生広報大使
※所属・学年は執筆当時のものです。